呼吸器内科とは

呼吸器は、鼻もしくは口から空気を吸い込み、そこに含まれる酸素を肺胞で取り込み、二酸化炭素を体外へ排出するというサイクルに関係する器官を総称した呼び名になります。呼吸器は大きく上気道、下気道に分類されます。上気道は、鼻腔、口腔、咽頭、喉頭にあたる部分をいいます。一方の下気道は、気管や気管支、肺に至る部分が含まれます。
一般的には、上気道が耳鼻咽喉科、下気道が呼吸器内科の診療範囲となっています。ただ上気道と下気道が連動して起きる疾患というのも少なくありません。したがって、どちらが原因かよくわからないという場合も遠慮なくご受診ください。
呼吸器内科でよくみられる症状
- 咳が長く続いている
- 痰が絡んでいる
- 血痰が出ている
- 喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューの呼吸音)が聞こえる
- 息苦しい(呼吸困難)
- 胸痛がある
- いびきがうるさいとの指摘を受けた
- 現在喫煙者で、禁煙をしたいと思っている など
呼吸器内科で取り扱う代表的な疾患
- 気管支喘息
- 咳喘息
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 肺がん
- 間質性肺炎
- 気胸
- 肺炎
- アトピー咳嗽
- 非結核性抗酸菌症
- 気管支拡張症
- マイコプラズマ肺炎
- 風邪(感冒)
- 急性気管支炎 など
検査内容について
当診療科では、肺や気道(上気道も含む)などに何らかの異常がみられるという場合、これらの状態を観察するための画像検査(胸部X線撮影 等)を行います。また呼吸機能を調べる検査では、肺の換気能力を測定するスパイロメトリー、気道の炎症の程度を調べる呼気一酸化窒素濃度測定なども使用するなどして、総合的に判断し、診断をつけていきます。
呼吸器内科でよくみられる
主な疾患
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
気管支喘息
咳喘息
気道に慢性的な炎症はみられますが、喘息のように喘鳴や呼吸困難が起きることはありません。長引く咳(3週間以上)が特徴的で、乾いた咳が持続します。痰については、ほとんど出ることはありません。ただ喉などに炎症があるので、少しの刺激でも咳は出やすくなります。
発症の原因は、アレルギー(ダニ、ハウスダスト、花粉、食物 等)の場合もあれば、風邪、タバコの煙、冷たい空気、過労・ストレスなども引き金になります。
治療に関してですが、主に吸入ステロイド薬を使用し、炎症を抑制していきます。また気道を広げる効果などがある気管支拡張薬なども用いることがあります。
アトピー咳嗽
咳喘息と同様に慢性的に気道の炎症がみられ、乾いた咳が長引きます。喘息のように息苦しいとか、喘鳴がみられることはありません。咳以外の症状としては、喉がむずがゆい、イガイガする等の違和感が出ることもあります。
咳自体は、身体に異物が入ったとされる場合に素早く体外へ排出する防御反応のひとつです。ただ、気道に慢性的な炎症が起きているため、必要以上に敏感になってしまっているので、少しの刺激でも咳が出続けてしまいます。夜明けや早朝の時間帯などに咳が出やすいという特徴もあります。
発症の原因ですが、アレルギー体質の方に起きやすいとされ、アレルギー性鼻炎や花粉症、アトピー性皮膚炎の患者様などに罹患しやすい傾向があります。
治療に関してですが、アレルギー反応を抑制するための薬物療法として、抗ヒスタミン薬などが使われます。また気道の炎症に対しては、吸入ステロイド薬が用いられることもあります。また原因となるアレルゲン(ハウスダスト、花粉 等)が判明している場合は、それを除去する環境を整えることも大切です。
非結核性抗酸菌症
結核菌以外の抗酸菌に感染し、発症している状態にあるのが非結核性抗酸菌症です。そもそも非結核性抗酸菌は、自然界に存在する細菌の一種で土や水などにも存在しています。同疾患は人を介して感染することはなく、ホコリや水滴を吸い込むなどすることで感染するようになります。ちなみに非結核性抗酸菌症の発症原因の大半は、MAC菌によるもので、同菌が肺で感染を引き起こしていると肺MAC症と診断されます。
この非結核性抗酸菌症は、多くは肺で感染するようになります。よくみられる症状ですが、感染して間もなくは、無症状ということもあります。ただ病状が進行するようになれば、咳が慢性的に出続けたり、痰が絡んだりします(血痰が出ることもあります)。このほか、全身の倦怠感、息切れ、体重減少などもみられるようになります。
診断をつけるにあたっては、喀痰検査(抗酸菌の有無)や画像検査(胸部X線撮影、胸部CT検査)を行っていきます。
自然に治癒するのが難しい病気で、治療は長期間に至るようになります。多くの場合、抗菌薬による薬物療法となります。例えば、MAC菌が原因であれば、3種類の抗菌薬(クラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトール)を服用していきます。
薬物療法では効果が乏しいと判断されると手術による外科的治療が選択される場合もあります。
肺癌
肺に発生した癌(がん)のことです。この場合、肺胞や気管支などの細胞が異常増殖するなどして形成された悪性腫瘍をいいます(原発性肺がん)。厚労省が公表している「2023年の人口動態統計(確定数)」によれば、日本人のがんによる死亡者数を部位別で見ると、肺がんは、男性が1位、女性が2位となっています。喫煙者は、吸わない方と比較すると発症リスクは約4倍といわれています。
発症の原因ですが、喫煙以外では、遺伝的要因、大気汚染、アスベストなどの有害物質の吸引なども挙げられます。発症初期は症状が出にくく、病状が進行すると、咳が長引く、血痰、息切れ、胸痛、体重減少、嗄声(声がれ)などがみられるようになります。ただ自覚症状が出ている場合は、かなり病状が進行している状態でもあります。
肺がんは4種類あるとされています。具体的には、非小細胞肺がんの腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんと小細胞肺がんに分かれます。その中でも喫煙者によくみられるのが、小細胞肺がんと扁平上皮がんです。とくに前者は肺がんの中でも病状が進行しやすく、転移しやすいがんとしても知られています。
診断をつけるための検査としては、画像検査(胸部X線撮影、胸部CT検査)、喀痰細胞診(痰の中にがん細胞が含まれているか調べる)、気管支鏡検査(腫瘍の有無を調べるほか、腫瘍が疑われる組織の一部を採取)、血液検査などがあります。
治療に関しては、外科的治療、化学療法、放射線療法が行われます。初期の非小細胞肺がんであれば、手術療法(外科的治療)が選択されます。小細胞肺がんでは、化学療法(抗がん剤)や放射線療法が検討されます。
間質性肺炎
肺炎のひとつではありますが、間質(肺胞壁 等)の部分で炎症が起きるものです。それによって肺胞壁は肥厚するなどして線維化していきます。これが酸素を取り込みにくくさせ、ガス交換(酸素を取り込んで、二酸化炭素を排出)がうまくいかなくなります。このような状態になるのが間質性肺炎です。
発症の原因は、不明な場合もよく見受けられます。ただ、薬剤の影響、放射線、膠原病(自己免疫疾患)など、原因が判明していることもあります。
発症によって見受けられる症状としては、乾いた咳や息切れ、呼吸困難があります。なお病状が進行すると、安静時であっても息切れするようになります。また指先がふくらむなどする、ばち指がみられるのも特徴です。
血液検査で炎症の程度を確認、画像検査(胸部X線撮影、胸部CT検査 等)で肺の状態を見る、肺機能検査で病状の進行状態を調べるなどして、診断をつけていきます。
治療に関してですが、原因によって異なります。自己免疫疾患によるものであれば、免疫抑制薬やステロイドの投与などが行われます。また原因が特定できない間質性肺炎では、線維化を抑制するための薬物療法(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が用いられます。また薬剤の影響であれば、使用している薬を止める、あるいは変更するなどしていきます。
このほか、息苦しいなどの症状があれば酸素吸入(在宅酸素療法)が行われることもあります。
気胸
何らかの原因があって肺に穴が開いてしまい、それによって胸腔の部分に空気が入り込んでしまい、肺がしぼんでいる状態にあるのが気胸です。この場合、胸痛や背中に痛みがみられるほか、咳、呼吸困難(息苦しい)などの症状も現れるようになります。
発症の原因ですが、肺に何らかの疾患(COPD、肺気腫、肺結核 等)があって発症する続発性自然気胸のほか、健康な方で何の病気もない場合でも起きるケースがあります(原発性自然気胸)。また転倒や刺し傷によるケガ、手術などによって発症する外傷性気胸があります。このほか胸腔に漏れ出した空気が溜まっていき、肺や血管が圧迫されるようになるのが緊張性気胸で、この場合は速やかな対処が必要です。
気胸は、胸部X線撮影、胸部CTなどの画像診断によって、発症の有無や原因、重症度などを調べていきます。
治療に関してですが、軽度であれば、安静にするだけで自然に回復していくこともあります。ただある程度まで症状が進んでいるのであれば、胸腔の空気を取り除く必要があります。その場合は、胸腔ドレナージや胸腔穿刺によって空気を抜いていきます。なお気胸を繰り返す、重症化している場合は、手術療法が検討されます。
肺炎
肺で炎症が引き起こされている状態が肺炎です。原因としては、細菌(肺炎球菌 等)やウイルス(インフルエンザ 等)による病原体による感染がよくみられます。ただ上記以外にも、誤嚥をきっかけに口内の細菌が肺に入り込んで感染するケース(誤嚥性肺炎)などもあります。
発症することで、発熱、激しい咳(痰も伴う)、息苦しい、呼吸困難などの症状がみられるほか、胸痛、倦怠感、喉の痛み、喘鳴、意識障害などが現れることもあります。
なお発症の有無や症状の程度、原因を確かめる検査として、血液検査(炎症の程度等を調べる)、画像検査(胸部X線撮影、胸部CT 等)、喀痰培養検査(原因菌を特定する 等)などが行われます。
治療に関してですが、発症の原因が特定していれば、抗菌薬などを用いることがあります。また原因が不明、あるいは特効薬がないという場合は、咳止め、痰切り薬、解熱薬などの薬剤による対症療法によって、症状をやわらげていきます。
ちなみに肺炎は日本人の死因第5位となっていますが、そのうち9割以上の方が65歳以上の高齢者となっています。成人の肺炎では、肺炎球菌の感染による肺炎が多いことから、1回限定ですが、高齢者の肺炎球菌ワクチンは定期接種扱いになっています。対象となる方で、これまでに一度も23価の肺炎球菌ワクチンを接種したことがないという場合は、肺炎にできるだけ罹患しないための予防対策として予防接種をご検討ください。